ヒロバトガリエダシャク? 成虫 Planociampa antipala Prout, 1930

少し前の3月後半に近隣で見かけた蛾の一種である。

大きさは、前翅長18ミリぐらいだったであろうか。

とにかく、腹部側の胸の辺りのフサフサ感が目立つ蛾である。あとは、前脚が長いのも気になる。

そして、まだ春本番とは言えない寒い日も多い、この季節に現れる蛾としたら、上の写真の種は、ヒロバトガリエダシャクなのではないだろうか。触角が見えていないので、上の写真の個体が、雄(櫛ヒゲ状の触角)なのか、雌(糸状の触角)なのかは、判断しかねる。

別の角度からの写真を、以下にもう一枚。

さて、このヒロバトガリエダシャクと思われる蛾であるが、3年前の同時期にも、雄と思しき個体の投稿をしていることを確認した。

幼虫の食草は、ブナ科のクヌギを筆頭に、結構、科を跨いで広汎に及んでいる。

生息範囲の方は、国内は、本州以南……対馬含む九州まで。海外の生息分布は、朝鮮半島を経て、ロシア沿海州南部までいる模様。

ちなみに,少し似た容貌の種で、ホソバトガリエダシャクという種も存在し,私も昨年の3月10日にそれと思う種の投稿をしている。そして、このホソバトガリエダシャクの生息範囲も、今回投稿したヒロバトガリエダシャクと被り気味なのだが、両種の間にどのような進化の関係性があるのかや、どうして同所に混生しているのか等、興味は絶えない。

ミノウスバ 成虫 Pryeria sinica (Moore, 1877)

本日,庭の手入れをしている時に見つけた。最初は、スカシバの仲間かと思ったが、直ぐに、「いやいや……これがアイツであろう」との予感がした。

そして、ポケットに入っていたスマホのカメラで、逃げられないように慎重に写真に撮った。

大きさは、触角を入れない体長で12ミリぐらいだった。

自分がアイツと睨んだのは、ミノウスバの成虫である。初夏に幼虫には嫌というほど出会えるのに,これまで一度も成虫の姿を見た事がなかったとても出会いたかった蛾である。ちなみに,触角が櫛歯状なのは雄らしいので、上の写真の個体は雄であろう。

まさかこんな晩秋に羽化する蛾だと思わなかった。それもそのはず,このミノウスバの幼虫が、ニシキギ科の植物(我が家には、マサキやニシキギやマユミが生えているが、圧倒的にマユミ)で大量発生した後、夏前には地面を移動する姿を最後に,その姿は見なくなるのである。ということは、晩秋に羽化するまで4ヶ月近く蛹でいるのかと推測する。

さて、このミノウスバの生息分布は、国内は北海道から対馬含む九州までいるようである。海外の生息分布は、朝鮮半島,台湾,中国の東北部。このことから極東アジアの温帯域で進化した蛾なのが分かる。

幼虫の数からしたら、そこかしこで成虫の姿を見ても良さげだが、今まで成虫の姿を見たことは無かった。あれほど沢山いた幼虫も、蛹時代に数を減らしてしまうのであろうか。

イカリモンガ Pterodecta felderi (Bremer, 1864)

数日前に近隣で見かけた昆虫である。

最初は、見たことがない気がする蝶を発見……と喜び,なんとか写真に撮ったのが以下のものである。

大きさは、少し似たような色合いのベニシジミより一回り大きいといったところであろうか。

早速,片っ端から目ぼしい蝶の科を当たるが、一向にヒットしてこない。同時期に近隣で乱舞しているキタテハに、なんとなく翅の形状が似ていると思い,タテハチョウの仲間を当たるが該当種は現れない。では、シジミチョウの仲間はどうであろうと当たるが、やはり該当種は出てこない。もしかしたら、オレンジ色の上翅は、翅の裏面ではなく,上の写真でいう手前側の上翅の欠損か何かで反対側の上翅の表面が見えているのではと勘ぐり,調べてみるが同じ紋様の翅表(おもて)を持つ蝶は見当たらず。

迷宮入りしそうになったところ,ネット上で、たまたまドンピシャの画像を見つける。恐る恐る、そのウェブサイトを表示してみたところ、納得することとなった。

上の写真の昆虫は、蝶に見えるけど,実はイカリモンガという名の蛾だったのである。そして、なんとなく、イカリモンガという種名に聞き覚えがあったので、自分の過去の投稿を確認したところ,3年前の4月に投稿済みの種であった。ただ、その時の写真よりは、今回の写真の方が、断然に特徴を捉えていると思う。そして、今見返すと、過去の写真は、イカリモンガには見えない気もするので、そのうち訂正しておこうと思う。

ちなみ,この上の写真のイカリモンガの傍らに,もう一個体が飛んでいて、写真に撮ろうと試みたが、ピンボケ過ぎる写真しか撮れなかった。一応,以下にアップロードしておく。

これを見ても分かるように,翅の紋様の変異は多い蛾として知られているようである。

また、種名のイカリモンガというのは、恐らく錨紋蛾と漢字で書くのではと推測したいが、自分には、どの紋が錨に見えるのか、ちょっと分からないでいるのも事実である。

さて、イカリモンガの幼虫の食草は、どうやらシダ科の植物のようである。実際に,このイカリモンガが飛んでいた場所には、シダ類は色々と生えていると思う。

生息分布の方は、国内は、北海道から九州まで生息しているようである。海外の生息分布の方は、朝鮮半島からロシア沿海州南部まで。また領土問題が解決していない竹島やその直ぐ近くにある韓国のウルルン島からの報告や台湾からの報告もあるようである。また、ユーラシア大陸では、揚子江の中上流域やインドの北部の方と,標高の高めの地域からの報告もあるようである。台湾にも高山はあるし,ここで分かるのは、この蛾が、寒い地域に適応していた蛾なんだということかもしれない。

ここで、この蛾の紹介は終わらせたかったのだが、そうは問屋に降ろさせない自分が居た。なんで蛾なのに,蝶のように昼間に花で吸蜜して、止まり方も蝶のように翅を閉じて止まるんだろうとの疑問が、フツフツと芽生えて来てしまったのである。どういう進化の過程にあるんだろうということである。

ただ、答えは、案外とシンプルであった。そもそも,蛾と蝶の境界を人間がハッキリと区別したがるが、グレーゾーンがあるという事である。そうやって考えると,日本にいる蝶と蛾の種数を比較すると圧倒的に蛾の方が多いので、蛾タイプの方が地球上には古くから存在して、このイカリモンガは蝶への進化の途中の種とも考えたくなったが、しっかり裏を取って調べているわけではないので、自分の中では、その考えは現状では憶測でしかない。