ヤマトカギバ オス メス

最近、近隣の雑木林で、交尾中と思われるヤマトカギバ達に出会った。

上の横に大きい方が雌で、下の触角が櫛髭状に見て取れる方が雄だと思われる。

思ったより、サイズや色調に違いがないなといった印象を持った。

ウスイロカギバ 成虫 福島県 標高800メートル

最近、気が付いた事だが、昆虫の分布状況を把握する際に、地図を上から眺めながら横方向の繋がりを模索するよりも、どの標高(気温帯)をメインに棲息しているかを掴んだ方が、昆虫の食草や種の進化の過程に繋がる情報を絞りやすいという事が分かって来た。

という事で、私が暮らす標高5〜25メートルぐらいのエリアの生物相の特徴を掴むためには、標高800メートルの辺り(気温が重要)のエリアとでも、違いがあるのか否かの比較は、少なからず色々なヒントをもたらしてくれる気がする。

では、この蛾はどうなのであろう。

大きさは、開帳で25ミリぐらいだったと覚えている。

正直、パッと見た時に、標高800メートルにも、近隣でたまに見かけるヤマトカギバが居るのかとの第一印象であった。しかし、1200メートル辺りで見たヤマトカギバにそっくりな蛾がエゾカギバという北方系の種である事を知った。その流れで、もう一度、上の写真を見返した時に、ヤマトカギバとサイズや色合いは同じでも、内横線が入っていない事に気が付いた。

人間の観察力や集中力なんか、こんなものである。こうして、別種だと確信した後に、種の特定をしたところ、ウスイロカギバという種が妥当であろうという事になった。

さて、幼虫の食草は、ヤマウルシやツタウルシといったウルシ科の植物であると知った。確かに、その蛾が複数いたエリアのいち早く紅葉を見せる木と言えば、ヤマウルシやツタウルシであり、沢山自生している。頷ける。

ちなみに、我家の近所近隣にも、明治時代に移入されたニワウルシなる中国原産の外来樹の群落を所々で見かける事がある。ただ、こちらのニワウルシは、ニガキ科の植物であり、ウルシとは似ているけど厳密には違うので、ウスイロカギバの食草にはならないと思う。

という事は、ウスイロカギバは、ウルシが安定して自生出来る気温帯までしか生息出来ない蛾なのであろう。我家の近隣近所には現れ難い蛾である事は間違いない。

エゾカギバ 成虫 標高1200メートル 福島県

この蛾は、近隣近所で見た蛾ではないが、敢えて、近隣近所の身近な蛾達の比較の意味合いも込めて投稿してみようと思う。

大きさは、前翅長15ミリぐらいだった。随分、標高の高い所にも見覚えのある蛾がいるもんだと思い、一応、写真に撮っていた。

見覚えのある蛾というのは、ヤマトカギバの事であり、近隣の雑木林の林縁で、まぁまぁ見かける蛾である。ただ、そう考えると、殆ど標高のない我家の近くから標高1200メートル辺りまでと、生息域に幅があり過ぎる気もするというのが正直なところであった。

という事で、もう一度調べると、殆どそっくりな外見で、エゾカギバという山地性の蛾がいる事を突き止めた。

2種の違いは、翅を裏から見た時に前縁に紋様があるか否かと、エゾカギバの方が全体の翅色が暗めというぐらいである。あとは、前翅の内横線と外横線の間が無紋かへの字状の実線になるという点である。(ヤマトカギバは、この場所に二つの分かれた点が現れるようである。)

この事実を基に、上の写真を見返すと、確かに私が知るヤマトカギバよりは、暗い色をしている気がするし、への字状の実線がある。

エゾカギバなのかなと思いたい。

さて、エゾカギバの幼虫の食草は、ブナ科のブナ、ミズナラ、カバノキ科のダケカンバ等との事である。

ちなみに、学名は、Nordstromia griseariaであり、極東ロシアや中国にも生息しているとの事である。一方、ヤマトカギバの学名は、Nordstromia japonica であり、日本と対馬、中国に棲息しているようである。やはり、2種とも誕生は中国と考えるべきであろうか。