このタナゴは、私の暮らす地域では、結構出くわすタナゴである。そして、「綺麗なタナゴが釣れたよ、採れたよ」って言う場合、大概は、このタイリクバラタナゴである事が、ほとんどである。
フナとかコイとかドジョウとか地味な色の淡水魚ばかりに普段出会って来ている人達が、突然、この魚が釣れてきたり、網に入ってきて、オスの派手な婚姻色を目にしたら、おそらく感嘆の声を漏らすのではと想像する。
現に、寒い時期ならこのタイリクバラタナゴを数時間で何百匹も網で掬えそうなポイントを知っている私でさへ、未知なる場所や予期せぬ場所で、このタイリクバラタナゴと遭遇すると、「おっ、ここにも居たな!」と多少の感動を覚えるのは否めない。
ただ、この美しい魚(タイリクバラタナゴ)に出会えた感動は、そろそろ、岐路を迎えているのかもしれない。
元々は、このタイリクバラタナゴという魚は、中国大陸原産の魚で、過去の戦争中の食料増産の目的で移入されたハクレンという魚の種苗に紛れ込んで日本にやって来たと言われている。1942年の事である。そして、最初に移入された関東より、少しづつ勢力を広げながら、日本全国に拡大しつつ今に至る外来のタナゴという事実を、多くの人が知ったり、思い出したりしなければいけない時代になって来たのかもしれない。
そして、フィールドで出会うこのタイリクバラタナゴの習性を観察していると、思った以上に環境適応力があるなと感じる事がある。例えば、池や沼のような止水にも生息していると思えば、少し流れのキツい河川にも生息しているし、また、産卵に選ぶ貝も、大型〜中型まで幅が広いようである。そして、シーズン中に、数回産卵するという繁殖力の優位性も侮ってはいけない気がする。
また、日本の近畿・四国・九州地方にスポット的に生息している純血の日本バラタナゴという種と容易に交雑してしまうと言われている。あとは、本来、関東・東北地方に、かつて当たり前に生息していたと思われるマタナゴ(タナゴ)という在来種の住処を、大型の産卵貝の取り合いに勝ち、奪ってしまっているのではないのかなという懸念を私は持っている。
そんな懸念が、私の頭をよぎるようになり始めた頃と同時期、環境省でも同じような懸念の動きが表れ始める。環境省からも、このタイリクバラタナゴが特定外来生物のひとつ下のランクの要注意外来生物に指定されたり、2015年3月からは、生態系被害防止外来種(環境省は、特定外来生物という呼び名も使いつつ、これまでの特定外来生物や要注意外来生物を一括りに生態系被害防止外来種という呼び名で括るようになった)の重点対策外来種(甚大な被害が予想されるため、対策の必要性が高い…これは、環境省の文章のまま載せた)に、このタイリクバラタナゴを指定している。
また、一般社団法人日本生態学会の定める侵略的外来種ワースト100にも、このタイリクバラタナゴは選ばれてもいる。
先ずは、市民が自然環境というものの大切さに気付き、色々な方向に、深い知識と共に一歩を踏み出していくことが、未来に繋がると思うけど…頑張れ…ひとりひとりの人間。
上の写真は、昨年の1月に、冬枯れの近所の田んぼを子供達と散策した際に、持ち歩いていた網で、水路の枡の部分の少し深いところを掬ってみたときに、網に入ってきたタイリクバラタナゴ達です。