サカハチチョウ  Araschnia burejana (Bremer, 1861)茨城栃木県境付近 標高300メートル

昨日、茨城県と栃木県の県境付近、標高300メートル付近で、少しだけ動植物を観察する時間があった。

すると、1匹の蝶が目に入った。2枚しかシャッターチャンスはなかったが、かろうじて飛び立つ前に姿を捉えれたのが以下の写真である。

アカタテハにしては、随分と小さいと感じたが、調べたところ、サカハチチョウという蝶らしい。紋

様から推察するに、多分、オスではないかと思う。このサカハチチョウという蝶は、春型と夏型とで別種と思われるぐらい色合い含め紋様が変わる蝶としても知られている。上の写真の個体は、春型である。

幼虫の食草は、イラクサ科のコアカソアカソが知られているが、ヤブマオやイラクサもいけるとの情報を読んだ。

生息分布の方は、国内は北海道から九州まで。海外の生息分布は、朝鮮半島からロシア沿海州南部まで………樺太にもいるようである。この分布からも分かるように、北方系の種のようで、この辺が、平地で殆ど見かけられない所以のひとつかもしれない。

また、ヤブマオメヤブマオは、平地でも見れる植物だが、この蝶が近隣の平地に降りて来ていない状況を考えると、好みの気温を捨ててまで、暑い里に降りてくる必要性は感じていないのかもしれない。

各都道府県が独自に定めるレッドデータでは、鹿児島県と長崎県が、絶滅危惧Ⅱ類に指定している。

アサマイチモンジ Limenitis glorifica (Fruhstorfer, 1909)

数日前に近隣で見かけた蝶である。生体ではなく、蟻が地面上を運んでいたものを拾い上げて、写真に撮ってみた。

翅裏から視界に入ってきたので、見たことのない紋様の蝶だと思ったが、翅表を見た時に、「なんだ……イチモンジチョウだったか。」と思った。

ただ、イチモンジチョウの翅裏の方は、シッカリと見たことがなかったので、イチモンジチョウの翅裏というタイトルで新投稿をしようとした時に、何か違うという勘が働いた。同時に、イチモンジチョウを検索するたびに、ヒットして来るアサマイチモンジという種が気になり始め、両種の比較をしてみた時に、上の写真の個体が、アサマイチモンジだということに気が付いた。

上の写真の個体は、死後硬直が始まり、翅表を見るために翅を広げるとバラバラに身体が壊れてしまう可能性を感じたので、慎重に慎重に限界まで翅を広げて、掌の上で撮った写真を以下に。

上の2枚目の写真を見ると、いわゆるアサマイチモンジの翅表の特徴なのである。

ちなみにイチモンジョチョウの翅表は、過去の投稿で確認していただきたい。

アサマイチモンジという名から、群馬県の浅間山周辺もしくは山地にしかいない蝶と思い込んでしまっていたが、どうも近隣では、アサマイチモンジとイチモンジチョウは、同所に混棲しているみたいである。

このアサマイチモンジの生息分布の方は、国内は、一般的に、本州のみと言われている。海外は、ニュージーランドやロシア沿海州南部辺りからの報告があるが、一応、日本固有種と考えられている種である。

一方のイチモンジチョウLimenitis camilla (Linnaeus, 1764)の生息分布は、国内は、北海道から九州まで。海外の生息分布は、ヨーロッパ全土に多く見られ、極東アジアにもいるようである。要は、動物地理学による旧北区に繁栄した蝶である事が分かる。

幼虫の食草は、アサマイチモンジもイチモンジチョウも、両種ともスイカズラ科のスイカズラ(忍冬)との事である。そして、アサマイチモンジとイチモンジチョウが同じスイカズラの株に産卵することもあるらしい。明るい場所を好むアサマイチモンジは、日当たりの良い葉に、日陰を好むイチモンジチョウは、日陰の葉にと、好みが分かれるようである。

最後に、アサマイチモンジは、都道府県が独自に定めるレッドデータでは、東京都が絶滅種、神奈川県と千葉県が絶滅危惧種Ⅱ類、埼玉県と島根県が準絶滅危惧種に指定している。

アカタテハ 成虫

最近、近隣で見かけて写真に撮った。

比較的街中の人通りも多い林で見かけた。大きなクヌギの木の横を何気なく通り過ぎようとした時に、この蝶が飛び立った。樹液に来ていたところと、ちょっと見慣れない蝶だったので、アカタテハだろうと予想して、なんとか写真に撮ろうと暫く追いかけっことなった。

翅も傷付いているのか、遠くへと一瞬で飛び去ることは無かったが、どうしても翅を開いた表面を見せてくれることはなかった。

このアカタテハという蝶は、想像以上になかなか出会えない蝶である。勿論、こうした蝶の多い少ないは、その年その年の環境因子にもよるが、この蝶が居そうな場所に、ツマグロヒョウモンキタテハは、常に数え切れないぐらい居るのに比べると、ヒメアカタテハやアカタテハはぐんと数が少なくなる。そして、ヒメアカタテハは時々出会えるが、アカタテハになると、出会えるとラッキーではなく、超ラッキーみたいな気持ちに私はなる。今年は、アカタテハを見かける方だと思うが、それでも、今回で3回目である。

さて、このアカタテハは、個体差もあるが、私は、他の似た蝶とは見間違わない気がする。翅の表面(上から見た時の翅の見える面)の爪先の方が、他の蝶より黒っぽい気がするからである。

ところで、このアカタテハの幼虫の食草は、限りなくカラムシで良いと思っている。同じイラクサ科のカラムシとヤブマオが30メートルぐらいの距離で生えている場所を知っているが、ヤブマオとカラムシの両方にクロキシタアツバという蛾の幼虫はいても、アカタテハの幼虫はカラムシにしか見れない。きっと葉の大きさとかにも好みがあるのかもしれない。

カラムシ自体は、古くからある農村集落には必ずと言って良いほど集落の何処かには植っている植物である。そして、そうしたカラムシの小さな群落を眺めていると、このアカタテハの幼虫や蛹を、案外見つける事は出来る。案外見つかる理由は、カラムシの葉が種類問わず裏面が白っぽいのだが、その裏面が人間の目には目立つ形で巣を作ってしまい、その中で生活する習性があるからである。

ただ、幼虫や蛹を見かけるわりには、蝶となった成虫には出会わない。

最後に、このアカタテハの将来を考えた時に、なかなか厳しんじゃないのかなと思えてしまう。というのは、アカタテハが選んでいるカラムシという植物が、地味な花しか咲かせない、現代人になんの魅力も意味もない植物にしか映っていない気がする。意味の無い植物として、人類にぞんざいに扱われていく運命を感じる。意味の無い植物なんて、この世にないのだが……。

もはや、このカラムシの繊維から織物を作っていたという歴史を知っている人がどれだけ居るであろうか?そんな私も、カラムシの小さな群落を見つめながら、遠い昔の里山の風景や暮らしを思い浮かべれるようになったのは、最近のことである。