最近、暖かい日が増えたが、そんなとある暖かな日に、近隣の雑木林で見つけた蛾の幼虫である。
これが蛾の幼虫だと分かるのは、似た外見の幼虫を過去にも見た事があり、ボクトウガの幼虫である事を知っていたからである。
ただ、今回は、随分地面近くで見かけたなと感じた。大概は、夏真っ盛りの頃に、クワガタでも捕まえようとクヌギやコナラの樹皮をめくった時に、幹肌にくっ付いているというようなシチュエーションで出会う。今回はと言えば、雑木林の落ち葉の上に無造作に捨てられた決して太くはない朽ちた木をひっくり返したところ、その木の裏側に生えていたカワラダケのようなものの中に巣穴を作り、丸まっていた感じである。巣穴といっても、半分は開いていたので、さぞ寒かったのではと想像する。
ところで、ボクトウガの幼虫の体色を表現するなら赤ワインのような色と表現したいが、今回の個体は随分色が濃いと感じた。
そして、このボクトウガの幼虫は、あの夏の雑木林の中から、何処となく漂って来る樹液の発酵した匂いの犯人である。というのも、この写真でも分かる通り、蛾の幼虫にしては、しっかりした顎を持っているのが見て取れる。この顎は、木を穿孔するためと、小昆虫を捕食するために使われていると思われる。
肉食性の蛾の幼虫というのは、ちょっと信じ難いが、このボクトウガの幼虫が樹皮の間や幹の中へと潜り込む事により、木からは樹液が出て、次にこのボクトウガの出す成分(糞?)と樹液が混じり合う事により、あの遠くまで漂う甘酸っぱい匂い醗酵臭が生まれるとのことである。そして、この臭いに吸い寄せられた昆虫達を、ボクトウガの幼虫は上手く捕まえて捕食しているとのことである。
視点を少し変えるが、子供達の夏の風物詩である雑木林でのカブトムシやクワガタ採集の影の立役者がこのボクトウガの幼虫なのである。もちろん、ボクトウガの幼虫も、シロスジカミキリの幼虫等が穿孔した穴を巧みに利用している一面もあるとは思われる。
近隣の雑木林や公園内でも、自分が子供だった頃と比べて、樹液の出ているクヌギやコナラの木が少なくなったと感じる。もっともっと、ボクトウガの幼虫に増えて欲しいと、私は思う。
ちなみに、7、8年前の事だが、とある場所の少し開けた場所に生えているクヌギの木の地際に樹液が出ている場所があり、暇潰しによくクワガタを捕まえていた事があった。その場所の地際の木の割れ目には、ボクトウガの幼虫が顔を出したり引っ込めたりしているのも確認していた。ある日、その辺りの一帯に、勿論その木の下の方にもぶっ掛かる勢いで大掛かりに除草剤が噴霧されているのを目撃し、あのボクトウガの幼虫もイチコロにやられてしまったに違いないと思った事があった。しかし、後日、確認に行ったのだが、想像とは違い、ボクトウガの幼虫は生き続け、その後暫くの間は、樹液を出す事に一役買い続けてくれていた。