数日前に、とある研究施設の構内で死んでいた。厳密には、その時は、まだ生きていた。
死体だと思っていて、辺りにあったブロックの破片でひっくり返して顔の部分を見ようとブロックの破片をコウモリの身体に近づけた瞬間、後ろ足が急に伸びて、ブロックの平らな部分をペタッとがっしりと掴んだのであった。
病院で朦朧とした意識の人に、急に腕をがっしりと掴まれた感覚に近いものを感じた。同じ哺乳類、同じ気持ちを感じた。
生きてる哺乳類を、無碍に好奇心で扱うのは良くないと思い、そのままにして、その場を後にしたのであった。その時に、壁寄りの目立た無い所に連れて行ってあげようかと思ったが、コウモリが危険なウイルスや細菌の媒介動物である事をよく知っていたので、途中で急に暴れたり噛まれたりする可能性も無きにしも在らず、それはしなかった。
ただ、その時にチラッと背側から撮った写真からでは、このコウモリの種類は断定する事は出来なかった。と同時に、コウモリを少し調べていて、都心部や住宅地で子供の頃からのお馴染みのアブラコウモリという種以外は、殆どのコウモリが絶滅危惧のなんらかの対象の類に入っている事を知った。
自然豊かな茨城に移り住んで以来、生体死体関わらず、コウモリを我が目で確認したのは初めてであったので、結構な森に半ば囲まれているとも言えるその施設内で息絶えそうになっていたコウモリは、もしかして、街中でよく見られるアブラコウモリとは違う可能性はないかと思い、午後に、もう一度その施設に入った際に、同じ場所に戻ってみることにした。
目的は、もしまだその場にいるようであったら、耳含む顔の特徴や腹部の毛色を確認して種を割り出す事であった。
すると一瞬見た感じ、コウモリは、何処かへ飛んで行ったか、持ち去られたのか見当たらなかった。それはそれで、予期していた結末であったが、もう一度よく目を凝らすと、カブトムシの雌より小さい塊が目に留まった。直ぐに、それが翅を閉じたコウモリの亡骸である事が分かった。
完全に息絶えていたのが分かったので、耳の形や顔や腹部の毛色を確認させてもらった。
どうも普通種のアブラコウモリのようだった。
完全に息絶えた亡骸が暴れたり、噛みついたりする事は無いので、今度は木の棒を使い、人に踏まれたりしないような建物の脇にに移動させてあげた。